物価上昇局面での値付け・値上げ対策(2)

  • 営業
2023年06月23日
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②中小企業における「収益力」を分解する

前回は、「中小企業白書」「価格交渉促進月間(2022年9月)フォローアップ調査の結果について」を基に、中小企業の物価上昇に対する価格交渉・価格転嫁の状況と、価格転嫁力が低い要因について整理しました。
今回は、中小企業が適正に値付け・値上げを行う上で考えるべき、自社の「収益力」について分解したうえで、それぞれの要素についてどのように改善できるかについて一例をあげながら解説します。

1.「収益力」の定義

中小企業のみならず、全ての企業は事業を成立させ、継続させるために「利益が継続的に出せること」が必須であることは異論がないでしょう。
(一部経営者の思い入れや社会貢献の観点から利益度外視の事業というものもあるかもしれませんが、今回は考慮しないこととします)
この「利益が継続的に出せること」=「収益力」と定義します。そうした時に、単純化して考えると
収益力=売上-コスト=自社の付加価値といえるのではないでしょうか。
2015年版 中小企業白書 (meti.go.jp)でも下図のような分解がされています)

 


筆者がメーカー勤務の企業内診断士であるため、モノづくりのサプライチェーンを念頭に置いていますが、どんな業種でも大きくは変わらないと考えます。
では、ここで定義した「収益力」について、高めていくためにはどうすればよいでしょうか。
「売上」と「コスト」に分解して考えてみましょう。

 

2.「売上」と「コスト」を分解する

利益を出すためにはまず「売上」を増やす必要があります。では、売上を分解するとどうなるでしょうか。例えば、
売上=「製品・サービスの単価」×「販売数」
  =(「原価」+「付加価値」)×(「マクロ需要」×「自社シェア」)
とすると、各項目でできることは、

「原価」
製造関連費用・サービスにかかる費用を低減する(これは後で分解します)

「付加価値」
自社の製品・サービスの持つ価値が何かを正確に理解し、その中で顧客のニーズを満たす製品・サービスを提供し、価値を認めてもらうことが重要です。
「安く売ること」を自社の価値と考えていると、販売数の増加につながるかもしれませんが、一度下げてしまった価格は上げることは一般に難しく、長期的な目線で考えると損失が大きくなります。

「マクロ需要」
広く競合となる製品・サービスと比較したメリット・デメリットを理解し、新たな需要の種を見つけることが有効です。
今まで他の製品・サービスが担っていた役割を置き換えることで、需要の総量を増やすことも可能です。

「シェア」
自社のシェアを拡大するには、同じ製品・サービスを扱う競合他社との差別化要素やメリット・デメリットを理解し、新規顧客または競合の顧客にアプローチすることが有効です。
競合に提供できない価値を理解し、顧客の悩み・困りごとを解決することで、非価格競争でのシェア拡大ができる可能性があります。

次に、売上がどれだけ増えても、コストが多くかかれば収益力は向上しない為、コストを低減する必要があります。
では、コストを分解すると、例えば製造業では
「コスト」=「売上原価」+「販売費・一般管理費」
     =(「材料費」+「労務費」+「経費」)+(「販売費」+「一般管理費」)
と定義すると、

「材料費」
現在の物価上昇局面で最も影響を受けている費用が材料費です。この材料費を抑制するためには、
・需要を見極めて材料在庫を極小化すること
・歩留まりを改善して材料ロスを減らすこと
などが対策として考えられます。

「労務費」
労務費も上昇を続けていますが、雇用人数の調整や給与カットなどは難しく、技術やノウハウの継承の観点からも安易に削ることは得策ではありません。
よって考えられる対策としては作業の効率化・機械化などによって製造に必要な要員数を最適化(合理化)することが求められます。
設備導入においては投資費用の捻出や効果算定がネックとなりますが、設備導入には「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」や「事業再構築補助金」等の補助金を活用することもできます。参謀ドットコムが連携している中小企業診断士が事業計画書の作成をサポートすることも可能です。

「経費」
経費の中で見直しができることとしては、例えば遊休設備の必要性を見極めて場合によっては売却するなどして減価償却費を削減することや、省エネ性能の高い設備に置き換えることで光熱費を削減することなどが考えられます。

「販売費」
営業にかかる人件費・経費が含まれるため、自分自身の営業活動が会社の収益に関わるという意識をもつことが重要です。必要以上のものや、目的が明確でない訪問や接待などは一度意義を考えてみるのが良いのではないでしょうか。

また、見逃しがちなコストとして物流や在庫費用があります。昨今燃料費の上昇やドライバー不足などの理由で物流費が上昇傾向であることは実感のある方も多いと思います。物流に関しては「2024年問題」(トラック運転者の労働時間制限の改善により、荷役に係る所要時間や人件費が増大する懸念があること)も控えており、これから注目度が高まるコストの一つです。

<厚生労働省HP「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」リーフレットより抜粋>

また、商社・流通業の場合、メーカーから製品を受け取ってから顧客が引き渡す間、金利負担が発生するため、引き取りが遅れることで費用がかさむ、といったケースもあります。
これらの費用を抑えるために、顧客との納期やデリバリーに関する調整を綿密に行い、纏められるものは纏める、余裕があれば前倒しで納入する、納期に合わせて製造を調整するなどのコスト抑制策があります。
コスト改善については中小企業庁の「ミラサポPlus」でも事例が紹介されていますので、ヒントが欲しい方はご参照ください。

3.大事なこと=まずは考えてみる

ここまで例示した内容はあくまで一例なので、まずは自社の取り扱う製品やサービス、市場、環境を把握し、分解してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
参謀ドットコムに参画している中小企業診断士は、中小企業経営支援のプロフェッショナルとして、収益力の分解、そこから見える強みや弱みについて分析し、考えるお手伝いをさせて頂くことができます。是非気軽にご相談ください。

参謀ドットコム 中小企業診断士 勝田慶

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