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どんな事業計画が採択されるの?
みなさん、こんにちは。参謀ドットコム 中小企業診断士の鳥山直樹です。
6月30日に事業再構築補助金の第10回公募、翌7月28日にはものづくり補助金の第15回公募が締め切られました。この2つの補助金を通じていくつかの事業者様をご支援させていただきましたが、1年前、2年前が「ウィズコロナ」であったのに対して、現在は「アフターコロナ」にシフトしていることを実感しました。もちろん、どの事業者様も何らかの形でコロナの影響を受けていることに変わりはないのですが、1年前、2年前であれば、その影響を現在進行形で受けながら経営の舵取りをしているところがほとんどでした。しかし現在は感染再拡大のリスクを認識しつつも、コロナを過去のものとして、新たな事業計画を策定、推進している印象が強かったです。決して景気が好転したわけではなく、楽観視できる状況にはないものの、前を向いて新しいチャレンジを志す事業者様が増えていってほしいものです。
さて、前回記事では事業計画書の書き方についてお話させていただきました。時間をかけて事業計画書を作成して、果たして採択されるのか、何よりも気になるところだと思います。そこで今回はこれまでの経験値を基に、どんな事業計画が採択される傾向にあるのか、お話します。
1.審査員の特性を意識したビジュアルを
前回記事でも触れましたが、審査員は各事業者から提出された事業計画書を、公募要領に示されているような一定の審査項目を指標として評価していると考えられます。公募要領によれば「外部有識者からなる審査委員会」が評価していることから、潤沢な人数の外部有識者を確保しているとは考えにくく、限られた人数と時間の中で、多数の事業計画書を読んで評価していると考えるのが自然です。そのため、1人の審査員が1つの事業計画書を読む時間は非常に限られているはずです。1つの裏付けとしては、ページ数の目安があります。公募要領には、「A4サイズで計15ページ以内(補助金額1,500万円以下の場合は計10ページ以内)での作成にご協力ください。記載の分量で採否を判断するものではありません」という記述があります。これは、限られた時間で読んで評価する適量が示されていると考えられます。ページの過不足が不採択に直結したり、減点対象になったりすることはなさそうですし、私の経験上もページ数が1~2ページ超過しても採択されたケースはありますが、やはり1つの目安としてこのページ数に収めた方が無難と言えるでしょう。「短時間で事業計画を適切に評価しなければならない」という審査員の特性を理解し、そこで確実に評価してもらえる事業計画書を仕上げることが非常に重要なのです。
いろいろと突き詰めていくとキリがないのですが、審査員も人であり、一読で理解できて目にも優しい事業計画書には、高い評価を付けやすいと思います。定められた期限内に多数の事業計画書を読んで評価する審査員の目線に立って、心証を損なうことのない事業計画書を作成しましょう。そのためには、事業計画書のビジュアルにも気を配りたいです。事業計画の内容は次項に説明しますが、私がビジュアル面で特に気を付けている点についてご紹介します。
(1) 画像や図表を適度に挿入
やはり、文字ばかりの計画書は読み手にとってストレスです。事業計画は、その事業内容が容易にイメージできないと、何度も読み返したり、深読みしたりと目と頭を酷使することになります。これは審査員にとって大きなストレスです。直接視覚に訴求することで、イメージスピードは格段に上がりストレスが軽減されます。一方で、画像や図表を挿入することで分かりやすくはなりますが、同じスペースにおける情報量は減少しますので、バランスにも留意します。1ページでは、3~5つまでを目安にします。
(2) 1文を80字、1段落を5行程度で
同じ文章を読むにしても、読み手はテンポよく読みたいものです。事業計画書に限ったことではありませんが、1文や1段落が極端に長い文章は、前後のつながりや書き手の意図が読み取りにくく、ストレスになることがあります。そのため、1文を構成する文字数や、1段落の行数にしきい値を設けて、読み手のストレスを軽減することを意識します。
(3) 小見出しの活用
インターネットや新聞などの記事で、タイトルと本文の間に本文を要約した1文を見ることがあると思います。同様の手法で、本文を20~40字(1行以内)に要約して、その段落等が端的に何を訴求しているのかを凝縮して表現します。これにより、仮に本文を読み飛ばしたとしても訴求ポイントが伝わります。
(4) 具体化と数値化を必ず検討
抽象的な記述は、書き手にとって多くの要素を包含する側面もあって書きやすいのですが、事業計画を読み手に正しく伝えることからはどうしても遠ざかります。読み手の頭の中で抽象から具体へ変換するプロセスが発生してストレスになりますし、誤った解釈をされる恐れもあります。できるだけ具体的な記述と、数値化して定量的に訴求できないか、必ず検討します。
(5) フォントと色の統一
これは好みもあるので一概にどのフォント、色がよいとは言えませんが、やはり統一感のある文字フォント、色使いは、読み手の立場では見やすいと考えています。ちなみに私が支援する際には、タイトルや見出しは「BIZ UD ゴシック」、本文は「BIZ UD明朝」を基本としています。表を使う場合は、見出し列や行に色付けをしますが、事業計画書全体で同じ色を使うようにしています。執筆時の効率も意識して、標準的な色を選択します。
2.審査項目は絶対に落とさず、誰が読んでも同じ事業イメージが湧くように
ビジュアルに気を配るだけではもちろん片手落ちで、内容が伴って初めて採択に近づきます。これは当たり前ですね。では、実際に思い描く新事業の計画がすでにあるとして、どんな事業計画書にプロットすればよいのでしょうか?前回記事で、審査項目を抑えた書き方、審査項目に適った事業内容を記述することをお勧めしました。繰り返しになりますが、いくら優れた事業計画があっても、審査項目を無視した計画書ではほぼ採択されないでしょう。実は公募要領にも、「事業計画書の具体的内容については、審査項目を熟読の上で作成してください」とわざわざ明記されています。このことからも、審査項目を押さえることは最重要事項といっても過言ではありません。審査項目の具体的内容は、公募要領のP.45~49(第10回公募 1.5版)を参照いただくとして、重要なポイントについて解説していきます。
(1) 補助対象事業としての適格性
これは前回記事で触れた通りで、該当要件を満たすことを客観的に判断できるよう明示的に説明しましょう。
(2) 事業化点
●マーケティングができているか。
新事業のユーザー、マーケット、ニーズ、競合他社等を適切に分析し、マーケティング活動ができているかが重要です。ユーザーやニーズが十分に存在し、その中で自社の優位性が確保できているか、特に価格面、性能面での差別化が図られ、しっかり収益を上げていくことができるか、評価のポイントになります。ここがしっかり分析できていないと、闇雲な新事業と判断され、審査上マイナスに働くと考えられます。一方で、市場調査や競合分析等への深追いは禁物です。調査費用が発生したり、相当な時間を必要としたりと、大きな負担が発生します。コストや時間を必要最小限に抑え、インターネットや図書館等で得られる情報で根拠を示すことができれば十分です。
●課題認識と、課題解決に向けた計画が十分か。
短期的、近視眼的な計画ではなく、中長期的な視点で事業遂行における課題を的確に認識できているか、その課題の解決方法や事業化までのスケジュールを無理なく設定できているかが問われます。おそらく、多くの事業者様は事業の推進方法は把握していると思いますが、その裏にどんな課題があるのか、採ろうとしている事業推進方法がその課題解決にどう貢献するのか、認識できていないことや、おぼろげに分かってはいるが言葉にできないことが多いです。何のためにこの新事業を推進するのか、新事業を推進する上でどんなことが起こり得るのか、想像も働かせながら明確にプロットしていきたいところです。これも審査では厳しくチェックされる要素になりますので、できるだけ具体的に、図表も適宜活用しながら丁寧に記述するようにしましょう。また、課題の数は2~3つを挙げるのがよいでしょう。1つだけでは課題抽出が不十分な印象を持たれますし、それ以上は説明が大変になり、ページ数を占有してしまいますので、適度な数の課題を挙げて、それぞれ具体的な解決方法を示しましょう。
●人材、能力、資金は十分か。
新事業を推進するための人材、能力、資金の目処がついているかが重要です。人材は、新事業に造詣が深い人材がいるか、いなければ確保する見通しはあるか、を明確に示します。資金は、自己資金や融資で事業費を賄える見通しが立っているかがポイントです。財務状況はよいに越したことはありませんが、赤字や債務超過であっても、調達できる道筋が立っていれば問題ありません。
(3) 再構築点
●事業再構築の必要性を分析できているか。
自社の状況を正確に分析し、本当に、今、この事業再構築が必要であることを、納得感のある根拠をもって説明する必要があります。SWOT分析の結果から、多面的に分析して必要性をアピールしましょう。
●チャレンジングで大胆な取組みか。
既存事業の延長レベルになっていないか、覚悟を持って取り組む新事業であることを示します。これは、単に多額の投資をすることや、まだ世の中にない新規事業を立ち上げることではありません。自社のこれまでの取り組みや経験、リソースに照らして、リスクを背負って思い切った事業再構築を行うことを、客観的に示します。
●既存事業とのシナジーはあるか。
大胆で思い切った新事業であっても、既存事業と関連性がないものは高く評価はされません。既存事業の商品、サービス、ノウハウを活用した新事業や、代表のネットワークや能力を活かせる事業を選択したいところです。
●ポストコロナの時代に相応しい事業であるか。
やはり、この補助金の根幹にはコロナ対策があります。現在はウィズコロナからポストコロナにシフトしているので、新時代に向かって大胆な事業展開を図ろうとしていることをアピールしたいです。もちろん、これまでに受けたコロナの影響については必ず言及したいところです。
(4) 政策点
●先端的デジタル技術、低炭素技術等を活用しているか。
これらの技術は、事業再構築補助金に関わらず、国が重要技術と位置付けています。無理やり新事業に結びつけてまで記述する必要はありませんが、これらの技術そのものを、もしくは関連技術を活用しているのであれば、積極的にアピールしましょう。
●ニッチ分野で差別化ができているか。
これも、必ずしもニッチ分野に結び付ける必要はありません。それよりも、自社の独自性を打ち出した差別化ができていることが重要です。マーケティング活動にも関連しますので、新事業がどんな分野に属していて、そこでどんな差別化を実現できるか、具体的に説明をしましょう。
●地域への貢献ができているか。
他の補助金でも求められることが多いですが、地域の雇用創出や地域経済活性化を実現し得る新事業であることを熱く説明しましょう。新事業が特定の地域に特化した事業でなくても、無理のない範囲で言及はしておくのがよいでしょう。
(5)グリーン成長点
以降は、特定の申請枠に特化した審査項目ですのでここでは割愛しますが、該当する枠で申請する場合は、認定経営革新等支援機関に相談しながら、審査項目に適合することを必ず示すようにしましょう。
審査項目について共通していることは、誰が読んでも同じ解釈ができ、同じ事業イメージが湧く記述が重要です。審査員は外部有識者であり、様々な業界、職種の方が関わっていると考えられますが、審査員によって解釈が分かれてしまう、異なるイメージを持たれることのないように細心の注意を払って記述することを心掛けたいです。
3.審査員の心を打つ事業計画を目指して
ビジュアルに留意して、審査項目ももれなく押さえることができれば、かなり採択確率は高まります。でも、事業再構築補助金は認定支援機関要件があるため、基本的には事業計画書における一定の品質は保たれます。できれば、事業計画書の品質が一歩抜きん出ることで、確実な採択を実現したいものです。
先に触れた通り審査員も人ですので、淡泊な事業計画よりは、情熱が溢れワクワクするような事業計画を応援したくなると思います。ビジュアルや審査項目を押さえるのは大前提ですが、これまでの事業運営で大切にしてきたこと、自社の強みの源泉、新事業への想い、将来の夢と展望等、代表ご自身の言葉で熱く織り交ぜておきたいです。この部分は、個別に項目を設けるなどで抜き出して、力強くアピールしてもよいと思います。こうすることで事業再構築にかける代表者の想いや覚悟が審査員の琴線に触れ、好印象をもたらしてよい評価につなげられます。私の支援経験上も、今回説明したことを細部に渡って押さえた事業計画書は、これもまたよい結果につながっています。ぜひとも実践して、よい結果を結んでいただきたいと思います。
私の記事は今回が最終回となります。3回に渡り事業再構築補助金についてお話ししましが、記事の内容がお読みいただいた皆様のお力になれれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。