物価上昇局面での値付け・値上げ対策(3)

  • 営業
2023年08月25日
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③値付けの重要性と上手な値上げの進め方

前回は、中小企業が適正に値付け・値上げを行う上で考えるべき、自社の「収益力」について分解したうえで、それぞれの要素についてどのように改善できるかについて一例をあげながら解説しました。
今回は、分解し改善した収益力を活かし、企業として継続的に事業を行っていくために、どのように値付けをし、必要なタイミングで値上げを行っていくかについて解説します。

 

「値付け」の重要性

どのような事業を行う場合でも、最初に行うのは価格設定、すなわち「値付け」ではないでしょうか。その値付けについて、深く考えずに「他社と同じ価格帯(または他社より安い価格)」「コスト+利益率」といった形で決めている事業者の方もいらっしゃると思います。

しかしながら、最初の「値付け」は事業を発展させていくうえで大変重要な意思決定であると私は考えます。その理由は、最初に決めた価格は今後の商談の基準となり、そこから値上げを行うためには顧客を納得させる更なる理由が必要になるからです。
例えば最初に他社よりも低価格で値付けし市場に参入することは、一時的な顧客獲得にはつながる可能性はあるかもしれませんが、顧客の目線が下がったところからのスタートとなり、その後にコストに見合った価格に戻そうとしても受け入れられるためには大きなハードルがあります。すなわち、事業継続性の観点からはリスクが高い「値付け」であるといえます。
よって、製品・サービスの持つ価値に見合った「値付け」が大事になります。

 

「値上げ」を成功させるためのポイント

次に、どれだけ適正な「値付け」を行ったとしても、市場環境の変化やコスト(原材料費・光熱費・人件費など)の上昇、ひいては2023年現在の様な世界情勢の変化によって「値上げ」を行わなければならない場面が必ず発生します。また、事業を継続的に成長させ、さらなる付加価値を社会に提供していくためには設備や研究開発に投資を行う必要があり、その原資を確保するために「値上げ」を行うケースもあるかと思います。
ただ、本特集の第1回でも示した通り、特に中小企業においては取引先との関係から値上げを受け入れてもらうことは容易ではなく、価格転嫁力が低い状況にあります。
では、そのような中で値上げを上手に進めるための3つのポイントを紹介します。

ポイント①自社製品・サービスの付加価値を正しく理解する
値上げを顧客に要請するためには、まず自社の提供する製品・サービスが顧客にどの様な価値をもたらすかを顧客目線で理解する必要があります。
競合製品や代替製品がある中で、なぜ自社製品を選ぶ必要があるのかを客観的に理解し、顧客に説明することで、値上げをするなら他社に、という心移りを抑止することにつながるでしょう。

自社製品・サービスの強み(とすべき点)って何だろう、という事業者や営業担当の方は、実は多いのではないでしょうか。
他社にはない技術や品質、取扱製品のラインナップの多さ・深さ、顧客の困りごとにワンストップで対応できる対応力・商品知識、コスト競争力(安売りすることではなく)など、何が強みかを改めて理解して自分の言葉にすることで、自信をもって値上げを申し入れることができるのではないでしょうか。

ポイント②値上げの背景を理解し、見える化する

自社の強みを理解しても、なぜ値上げをしなければならないかを納得してもらえなければ顧客を説得できないのではないかと思います。

現在でいえば原料コストの高騰、為替影響、人件費、物流コストの増加等がコストをひっ迫しているのが主要因、というケースが多いのではないでしょうか。
これらの要因について、過去からの推移を数値・グラフで見える化し(昨年同時期から●●%上昇した等)、これらの上昇がなぜ起きているのか、今後どうなると想定しているかまで説明できるように理解することで、顧客が値上げ断固拒否の姿勢から話を聞いてもらえるようになるでしょう。

また、値上げができないと何が起きるかについても説明するとよいと考えます。
相手を脅すような言い方は逆効果となる可能性がありますが、値上げができないことで社内での立場が弱くなり、供給自体ができなくなる可能性がある、不採算事業となることで事業撤退のリスクがある、など現在からの地続きで起きうるリスクを本音ベースで説明することも、強みをもち他社への切り替えが難しい事業であれば有効と考えます。

ポイント③交渉相手と「その先」を思いやる
ここまで自社側の事情や状況について顧客に理解してもらうための動きでしたが、当然交渉相手の立場についても考える必要があります。
交渉相手が購買の意思決定権がない場合もある場合も、その人一人の判断で値上げを受けるかどうか決めるということはないと思います。
上司や社内幹部、または公共事業や民間大規模事業の場合には事業主体への説明が求められるということが想定されます。(自分の場合どうかと置き換えてみればイメージしやすいのではないでしょうか。)

交渉相手がこちらのお願いしている値上げを承認してもらうためにどの様な情報が必要か(例えばポイント②で挙げたような情報)を聞き、一緒に値上げ受諾に向けたストーリーを考えましょう、というスタンスで会話できれば、こちらの強力な援軍に代わってくれる可能性があります。

また、自社内で値上げの目標ラインと最低(それ以下であれば撤退やむなし)ラインを明確にしておき、その範囲内でバッファーを持たせながら交渉することも重要です。
最後の一押しで(バッファーの範囲内で)もう一段値上げ幅を縮小することで、交渉相手に頑張ってくれた、という印象を与え、次回以降の交渉に向けたよい関係を築くことができると思います。

 

価格交渉を自分ごとにする

ポイントをまとめると以下の通りです。
①自社製品・サービスの付加価値を正しく理解する
②値上げの背景を理解し、見える化する
③交渉相手と「その先」を思いやる

これらのポイントに加え、最も大事なことは「価格交渉を『自分ごと』にする」ことではないかと思います。
世の中が値上げの風潮だから、他社も値上げしているから、といった形で受け身・他者起点の考え方で交渉に臨んでも言葉に説得力が出ないはずです。
この価格交渉が自社の存続を左右する、達成しなければならないミッションである、というマインドで値上げを申し入れすることが、相手に響く交渉となるための条件ではないでしょうか。

価格交渉の進め方については、ミラサポPlusでも漫画で分かりやすく紹介されています。内容も今回ご紹介した内容と近いかなと思いますので、ぜひご一読ください。

引き続き円安、原料高などが続き値上げが必要な状況は続くと思われますので、参考になれば幸いです。

参謀ドットコム 中小企業診断士 勝田慶

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