- 事業再構築補助金
みなさん、こんにちは。参謀ドットコム 中小企業診断士の鳥山直樹です。
2023年5月8日から、新型コロナウイルス感染症の感染症法における取扱いが2類から5類に移行され、いよいよポストコロナの時代に突入しました。事業再構築補助金は2021年から始まり3年目に入りますが、ポストコロナにおける経済環境の変化に対応していくためにまだまだ有効活用できるシーンは多いと思います。
その一方で、事業再構築補助金のことを知らなかった、知っていたけど考える余裕がなかった、という事業者様もまだまだいらっしゃると想像します。そこで、参謀ドットコムでは事業再構築補助金の制度をおさらいしつつ、ポストコロナ時代における最新の活用方法についてお話したいと思います。
1.事業再構築補助金ってどんな補助金?
事業再構築補助金の第1回公募は、2021年3月に開始されました。
そこから2年が経過し、直近では第10回公募が2023年3月にオープンになっています。
回数を重ね、申請要件や規模が少しずつ変化してきていますが、ここで第1回公募における、「事業概要」と「事業の目的」を振り返ってみます。
【第1回公募の事業概要】
本事業は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援します。
また、事業再構築を通じて事業規模を拡大し、中小企業者等から中堅・大企業等に成長することや、中堅企業等が海外展開を強化し市場の新規開拓を行うことで高い成長率を実現することは特に重要であることから、本事業ではこれらを志向する企業をより一層強力に支援します。
【第1回公募の事業の目的】
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援します。
2021年3月と言えば、日本国内での感染拡大が始まって1年が経過した頃で収束の兆しは全く見えず、まさに「ウィズコロナ」の世の中でした。様々な経済社会の変化が起こる中、「ポストコロナ」と称してそれを乗り越えるための取り組み、思い切った事業再構築に意欲のある事業者の挑戦を力強く支援することが、この補助金の目的の根幹でした。
それが2年の時を経て、どのように変化したのでしょうか?第10回公募における「事業概要」と「事業の目的」には、以下のように書かれています。
【第10回公募の事業概要】
本事業は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業・業種転換、事業再編、国内回帰又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。
第10回公募からは、コロナや物価高等により依然として業況が厳しい事業者への支援として「物価高騰対策・回復再生応援枠」を措置することに加え、産業構造の変化等により事業再構築が強く求められる業種・業態の事業者への支援として「産業構造転換枠」、海外で製造する部品等の国内回帰を進め、国内サプライチェーン及び地域産業の活性化に取り組む事業者(製造業)への支援として「サプライチェーン強靱化枠」、成長分野への事業再構築を支援するべく売上高等減少要件を撤廃した「成長枠」を新設するなど、ポストコロナ社会を見据えた未来社会を切り拓くための取組を重点的に支援していきます。
【第10回公募の事業の目的】
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業・業種転換、事業再編、国内回帰又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。
あまり変化がないようにも見えますが、「日本経済の構造転換」という文言が加わり、「ウィズコロナ」よりも、さらに「ポストコロナ」に重きを置いた事業であることが読み取れます。
引き続き、コロナの影響を強く受けて今も苦戦する事業者を支援しつつも、新たに生じた危機である物価高に対する支援や、産業構造やサプライチェーン、地域産業といった、一事業者に止まらない大規模な事業再構築まで視野に入れたものに変容しています。
この事業の契機としてコロナがあり、そこから生じる変化に対応することへの支援は踏襲しつつ、まさに「ウィズコロナ」から「ポストコロナ」への時代変遷に日本経済の構造転換を目指して、より広く事業再構築を志向する事業者の挑戦を支援する補助金として位置付けられていると言えます。
2.どんな会社が申請できる?
では現在の第10回公募において、どんな会社が事業再構築補助金の申請ができるのでしょうか?
補助対象者の基本的な定義としては、「日本国内に本社を有する中小企業者等、及び中堅企業等」とされています。主には、中小企業基本法第2条第1項に規定される中小企業ですが、対象法人格や中堅企業の定義など、細かく規定されています。詳細は、公募要領をご参照ください。
次に、補助対象事業の類型が定義されています。第10回公募から事業類型が大きく変更され、「成長枠」、「グリーン成長枠」、「卒業促進枠」、「大規模賃金引上促進枠」、「産業構造転換枠」、「サプライチェーン強靱化枠」、「最低賃金枠」及び「物価高騰対策・回復再生応援枠」の8つの枠組となっています(下線は新設枠)。
各事業類型の詳細な定義は公募要領を参照いただくとして、もう1つの大きな変更点として、「売上高減少要件」の縮小があります。
第9回公募までは、ほぼ全ての事業類型において売上高減少要件が設定されており、コロナの前よりも後の売上高が減少している必要がありました。
比較する期間にも規定があり、単純に年単位で減少していても、規定に沿って比較すると要件を満たせないことがありました。
第10回公募からは、売上高減少要件が課されるのは「最低賃金枠」と「物価高騰対策・回復再生応援枠」のみとなっています。
一方、「市場拡大要件」や「給与総額増加要件」といった、成長を示唆する要件が増えています。
これから取り組む事業は市場規模が拡大する見込みはあるのか、従業員の賃金を引き上げできるのか、といったことで成長性をしっかりチェックします、ということを示唆しているのです。
このことからも、ポストコロナ時代の成長や構造転換を促進することを目指した補助金であることが分かります。
単にコロナの影響を受けて苦戦しているだけではなく、ポストコロナの時代に即して成長や構造転換を志し、事業再構築を推進する会社であることが求められています。
3.どんな新規事業なら申請できる?
ところで、何をもって「事業再構築」というのでしょうか。前述の8つの事業類型における共通の要件として、「事業再構築要件」があります。これは中小企業庁が掲げる事業再構築指針が示した事業再構築の定義になり、この定義に該当しない取り組みは支援対象外、ということになります。支援の対象となる事業再構築は、以下の通り定義されています。
<事業再構築の類型>
① 新市場進出(新分野展開、業態転換)
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主たる業種又は主たる事業を変更することなく、新たな製品等を製造等し、新たな市場に進出すること |
i. 新たな製品・商品・サービスを提供すること、又は提供方法を相当程度変更すること ii. 新たな市場に進出すること iii. 新規事業の売上高が総売上高の10%以上になること(付加価値額の場合は、15%以上) i.からiii.を満たすこと。 |
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② 事業転換
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新たな製品等を製造等することにより、主たる業種を変更することなく、主たる事業を変更すること |
i. 新たな製品・商品・サービスを提供すること ii. 新たな市場に進出すること iii. 主要な業種が細から中分類レベルで変わること i.からiii.を満たすこと。 |
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③ 業種転換
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新たな製品等を製造等することにより、主たる業種を変更すること |
i. 新たな製品・商品・サービスを提供すること ii. 新たな市場に進出すること iii. 主要な業種が大分類レベルで変わること i.からiii.を満たすこと。 |
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④ 事業再編 | 会社法上の組織再編行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡)等を補助事業開始後に行い、新たな事業形態のもとに、新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業転換、業種転換のいずれかを行うこと |
⑤ 国内回帰 NEW |
海外で製造等する製品について、その製造方法が先進性を有する国内生産拠点を整備すること |
ここで、「新たな製品・商品・サービス」「新たな市場」というキーワードに着目します。これも、何をもって新製品・新商品・新サービスと言えるのか、新市場と言えるのかが、これだけでは不明瞭ですが、事業再構築指針の中で定義されています。この定義をより詳細に説明しているのが「事業再構築指針の手引き」になります。それぞれ、「製品等の新規性要件」、「市場の新規性要件」として、以下のような説明がなされています。
要件名 | 説明 |
製品等の新規性要件 | ①過去に製造等した実績がないこと ②定量的に性能又は効能が異なること※ ※製品等の性能や効能が定量的に 計測できる場合 に限って必要 |
市場の新規性要件 | 既存事業と新規事業の顧客層が異なること |
この要件適合が重要な補助金ですが、意外と適合していない、もしくは適合性が低くあいまいな事業内容で申請を検討されるケースが多いです。
たとえば、コロナ前は宴会の売上比率が高かったそば・うどん店が、コロナ禍で宴会を縮小しランチ主体の店舗にするための店舗改装を行うが、提供するメニューやサービス内容は従来通りとする場合、物理的に店舗が変わってもメニューやサービスが変わらないので、「過去に製造等した実績」があり、要件に適合しないことになります。
これが、コロナ禍でテイクアウトやデリバリーを開始、テイクアウトに適した新メニューを開発し、店舗もテイクアウト向けに改装する、ということであれば、過去に実績がないメニュー(商品)やサービスを提供することで要件に適合します。
市場の新規性要件も同様で、要件に適合するかどうかを見極める必要があります。前述のそば・うどん店の例で言えば、前者の店舗改装だけでは対象顧客層が変わらないため市場の新規性がなく、後者であれば新メニューやテイクアウト・デリバリーサービスで新たな顧客層を開拓する計画とすることで市場の新規性を有する事業になり得ます。
このように、要件が細かく規定されており、事業内容によってその解釈が難しくなる場合もあります。
「事業再構築指針の手引き」には、各要件の適合例、非適合例を挙げて説明がなされていますので、事前にしっかり目を通すことをお勧めします。
また、もう1つの共通要件として「認定支援機関要件」がありますので、認定経営革新等支援機関に相談しながら、検討している新事業が要件適合するかどうかをしっかり見極めたいところです。
4.申請したらいつ補助金が支払われる?
苦労して事業計画書を作成して、書類を揃えて、やっと申請まで終えた後、補助金はいつ支払われるのでしょうか。結論から言うと、申請から補助金の支払まで、1年~1年半かかります。補助金支払いまでの流れは以下の通りですが、申請して採択されれば支払われるものではなく、交付申請・決定、補助事業の実施、実績報告、確定検査、補助額確定、精算払請求を経て、ようやく補助金が支払われるのです。建物、設備等を購入、支出を確認した後に支払われるため、資金計画もしっかり立てる必要があります。
5.申請には何を準備したらよいの?
第10回公募では、事業類型により異なりますが、補助上限は1,500万円~5億円と非常に大きな金額になっています。国の補助金であり、提出書類もかなり多くなっています。各書類の細かい規定は公募要領を確認いただくとして、以下の書類が必要です。これらを揃えるだけでもかなりの工数になりますので、余裕を持った準備を心掛けましょう。
1. 事業計画書 |
2. 認定経営革新等支援機関・金融機関による確認書 |
3. 決算書(直近2期分) |
4. ミラサポplus「電子申請サポート」の事業財務情報 |
5. 労働者名簿 |
6. <法人のみ>確定申告書別表一、法人事業概況説明書の控え |
7. <個人事業主>確定申告書第一表及び所得税青色申告決算書の控え |
※その他枠に応じて必要な資料があります。
また、事業再構築補助金は電子申請のみとなっています。電子申請にはgBizIDが必要となります。gBizIDの新規発行は、申込から2~4週間程度かかる他、申込には印鑑証明書が必要になります。こちらも、早めに着手して余裕を持った対応が肝要です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次回は、以下についてお話したいと思います。
- ・事業計画書はどう書けばよいの?
- ・どんな事業計画が採択されるの?